自動車免許

かってクルマを目の仇にしていた時
がある。
狭い路地にわがもの顔で進入してく
る。
自転車で走っていると、横から排気
ガスをふっかける。
背後でいきなりクラクションを鳴ら
す。
くそ、この仇をいつかとってやるぞ
とひそかに決心していたものだ。
33歳の時、病気をわずらい入院。
ベッドで天井を睨みながら、6カ月ツ
ライ思いをした。
そして退院。
この時だ。元気印の記念に自動車の
免許をとろうと決心した。
排気ガスをかまされるより、かます
ほうが気分がいいにちがいない思った
のだ。
 さっそく自動車教習場へいった。
 年下の教官にボロくそに罵倒されな
がら50ン時限もかかって免許証を手
にした。
 その時は、男泣きに泣いた。
 よーし、ぶっ飛ばしてやるぞ。狭い
路上にわがもの顔で乗り入れてやるぞ
と決心した。 
 友人から中古車を譲り受けたクルマ
で幹線道路に乗り出した。
 路肩で自転車をモタモタ走っている
前に出て、排気ガスをかましてやろう
と思ったが、うまくガスが出ない。
(最近のクルマは排ガス規制で黒いガ
スが出ないのだ)
 モタモタしていると、自転車からリ
ンリンとベルを鳴らされ邪魔者あつか
いにされて、とても傷ついた。
 よし、こんどは住宅街の狭い道路に
進入してわがもの顔で走ってやろう。
 しかし道が入り込んで運転がママな
らぬ。それに狭いカーブがうまく曲が
れない。
 何回も切りなおしをしていると、背
後でまた自転車のリンリンが鳴って、
がっくり肩を落とす。
 あげくに電柱に後ろのバンパーを当
てて、バンパーがめくれ上がってしま
った。
  意地悪走行もけっこう難しい。今
は諦めて、安全運転だ。

(掲載誌不明)