収集癖


 こどものころ、よくズボンのボケットにい
ろんなモノを入れて、おふくろに叱られたも
のだ。
 おふくろが洗濯するたびに、ズボンの中を
探ると、石、ビー玉、感光写真(古いね)、
蝉のぬけ殻、何かの金属製のゼンマイといっ
たものがぞくぞく出てくる。
 それをおふくろは無造作にゴミ箱に投げ入
れる。
 べつに宝ものでもないから、ぼくも文句を
いわない。
 大人になった今でも、この持ち込み癖はつ
づいている。
 ほとんどは、スーパーや薬屋のレシート、
チラシや食事のの領収書(何しろ、こちらは
自営業なもんだから)のたぐいで、ズボンの
尻のポケットや上着のポケットから出てくる。
 さいきん多いのはポケット・ティッシュ。
 あまり使わないのに、なぜかもらってくる。
 テイッシュ手配り仕事人。
 ぬっとテイッシュを鼻先に突き出されてし
まうと、ホイキタとつい受け取ってしまう。
「ありがとう」なんて感謝の言葉を発するこ
とさえある。
 たいていの通行人はソコを避けるか、迷惑
そうに受け取る。
 時には、テイッシュをいったん受け取って、
目の前で、ポイと路上に捨てたりする猛者が
いる。
 そんな時、配り人は片方の眉をつりあげ、
もう片方の眉をダランと下げて、口元はへの
字にしたり逆への字にと実に珍妙な表情をす
る。
 ぼくはそういうの見ると、配っている人
(たぶんアルバイトだと思うが)がかわいそ
うになる。
 足元のダンボールの中が空にならないと帰
れないだろうと気の毒になる。
 かわいい女の子ならなおさらだ。何回もそ
の子の前を通過して、三枚でも五枚でももら
ってあげる。
 時にはこっちが必要なこともある。
 寒風の下で体が冷やされ、鼻水が垂れそう
になった。
 ちょうど駅の階段を上がったところで、若
いオニイチャンが、ティッシュを配っていた。
「チョウダイ」と手を差しだしたら、そのオ
ニイチャンは、ぼくの手をするりと抜けて、
すぐ後ろの女性にティッシュを手渡した。
「くれよ」とぼくは口をとんがらしていうと
「ダメなの」
 ティッシュの表に、○○美容院本日新装開
店という文字が印刷してあった。女性専用テ
イッシュ。
 ここでぼくはハッと気がついた。あのティ
ッシュは、なにも物好きで配っているのでは
ない。
 営業行為だったのだ。アタリマエダ!
 こういう収集物も、お尻のポケットにがっ
ぽり格納されて、家に持ち帰る。
 おふくろのようにポケットを探って、ゴミ
箱に捨てる者はいない。だからたまる一方。
 これらの落ちつく先はぼくの仕事部屋だ。
 ここはもう手のつけようがない。新聞や雑
誌が机の上にも、机の下も床の上も散乱して
いる。
 靴下、脱ぎ捨てた靴下、ステテコ、ジーン
ズ、アンダーシャツ、パンツなどといった仕
事場に不つりあいなものまでたまっている。
 傑作なのは床に散乱しているスリッパ群だ。
 ここは公民館の上がり口か。
 どうやらぼくが階下におりていく時、素足
でいくらしい。
 そして自分の部屋に戻る時、だれかれのス
リッパを履いてくるらしいのだ。
 まったく無意識にこの所作をするのだから
家族はあきれかえっている。
 階下の全スリッパがなくなると、家のだれ
かれが、仕事部屋にやってきて黙って回収し
ていく。
 本もなんとかならないか。
 読みもしないのに、買ってきては、ツンド
クだけ。文庫本数冊の上にハードカバーを数
冊のっけ、その上に文庫本、その上にハード
カバーという妙な積み方するので、いつも崩
壊の憂き目にあっている。
 崩壊したらアトは知らん。
 ほんとにどうしてこうも整理が苦手で、モ
ノがたまるのだろう。
 ぐるぐる回転する椅子の上であぐらをかき
ながら、自己分析。
 昔ビンボーしていたから、いろんな物を周
囲に集めておかないと、不安なのだ。
 我楽多取巻安心症候群!
                                  
93・9月号「銀座百点」