かぐや姫の末裔

 「あのう、すみませんが、ちよっと」
「な、なんだ、人の歩いてる前に、いきなり立ちふさがりやがって」
「すみません、手を上に上げていただけませんでしょうか」
「手をあげろだって? なんで、俺が手をあげなきゃいかんのだ」
「私といたしましてはどうしても、あなたさまに手を上げてほしいのです。何か
の縁だと思って、手を上げてくださいな」
「ふざけるな」
「アノー、念のため。ほら、あなたの胸に突き付けている物。これおもちゃなん
かじゃなんですけど」
「ピ、ピストル……。バカにするな。そんなもんで驚く俺さまだと思ってんのか」
「………」
「こうみえてもナ、俺さまはな、昔、塀の中にいたことがあるんだぞ」
 ズダーン!
「……な、なんだ、こいつ、マジに撃つのか。馬鹿にするな、これでも昔は、窃
盗、強盗、詐欺、強姦…」
 ズダーン!
「ち、ち、ちょっと待て待て。わ、分かったよ。手をあげたらええんだろ。上げ
るよ、これでええのか。何だったら、足も上げてやろうか」
「面白いですね。上げてください足も」
「冗談、冗談だよ」
 ズダーン!
「ち、ち、ちくしょう。あ、あげるよ。エイッと」
「だめだめ、両足上げてくださいよ」
「そそんな。わ、分かったよ。上げればいいんだろ。えい」
ドシン。
「イテテテテ」
「あははは、面白い」
「チェッ、こいつ、だいぶ、いかれとるな。相手にならんほうがいいようだ。オ
オ、イテテテ。お前ナ、金が目的やったら、ポケットに十万円あるから。競馬で
当てた金だよ。これで、放免してくれないか」
「金なら私だって、カバンの中に百万円あります。ほら、この通り」
ドサッ。
 「一体、きみのねらいは何なのだ」
「いえ別に欲しいものはないんです。このピストルでですね、どこまで人を自分
の思うまま
に動かすことが出来るか、それを試してみたいだけなんです」
「冗談いうなよ、この忙しい世の中で。それだったら何もそんな物騒ななもの使
わんと、一千万円の現金で、人を思うように動かしたらええじゃないか」
「一千万円くらいで、人は動くでしょうか」
「動く、動く。そんだけあったら、大臣かて動かせるわ」
「本当? じやあ、あなたも、動きますか」
「当たり前だよ、百万円くれたら、動いてやるよ」
「ほんとですか。じゃ、足元の百万円あげます」
「へっへっ、いいんですかい。ほんとにもらっちゃって」
「では、いいですね。わたしのいう通りに動くんですよ」
「ほいきた」
「あそこからダンプが走ってきますね。合図したら、わたしの目の前で飛び込ん
でください」
「ち、ちょっと……」
「ほら、だめじゃないですか」
「べつのやつないの」
「このビルの屋上から飛び降りるというの、どうでしょうか」
「どうも、あんたと話してたら、異星人と会話してるみたいで、こっちまで気が
変になってしまう。ひょっとしたらあんたの脳細胞、正常に壊能してないのとち
ゃうか」
「ほらねえ、出来ないでしょう。お金はオー〜マイティではありません。人を動
かすには、これピストルしかないんですよ」
「百万円返してください」
「いやだと拒否したら」
ズダーン。
「分かった、分かった。そう、耳元でバンバン鳴らすなって。運動会で百メート
ル競走やってるんじゃないんだぞ」
「四つん這いになってください」
「ち、ちくしょう。こうか」
「そう、それから、私の周りを三回まわってワソと吠えてください」
「あのな、ほんとに俺怒るぞ」
ズダーソ。
「(クルクルクル)ワン!」
「あはははは、面白い」
「バカか、こいつ。何がオモロイんだ。それよりさっきからお前の顔、月みたい
に丸くて、ピカピカ光ってるように見えるけど、一体何者だ。異星人か」
「ピンボン! 当たり−」
「ガクリ」
「実は私、月からやってきたかぐや姫の末裔です」
「まったく、付き合ってられねえよ」
「あなた、ズボンのチャックを下ろしてください」
「やれやれえ、俺、小便なんかしたくないんだけどな」
 ズダーソ。
「クソー、これでええんか」 (ジー)
「今度は、上げてください」
「ほいほい、こうでっか」 (ジー)

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